【概要】
ポルトガルは、イベリア半島西端に位置し、スペインと国境を接する縦長の国です
南北に560km、東西に160kmと小さな国で、国土面積は日本の4分の1程度で、人口は約1,022万人です
東京都の人口が1,400万人弱なので、それよりも少ないです
その小さな国土のほとんど全域において、ワインが造られています
西は大西洋、南は地中海の影響を受け、内陸は大陸性気候であるなど、気候や土壌は多様性が豊かです
土壌は、北部と内陸では花崗岩、片岩(へんがん)粘板岩が主体で、南部と海岸では石灰質、粘土、砂が主体です
主要産業は農業で、特にコルクはポルトガルの主要な輸出製品のひとつで、
世界のコルクの約50%が生産されています
【歴史】
紀元前6世紀頃、フェニキア人によってブドウ栽培がはじめられたと考えられています
1143年、カスティーリャ王国の宗主下(そうしゅか)で、ポルトガル王国が誕生しました
この頃から、ポルトガルワインはイギリスに輸出されていました
16世紀半ば、南蛮貿易が始まり、日本では織田信長などの大名保護のもと南蛮文化が栄えました
信長が愛用していたといわれる、珍蛇酒(ちんたんしゅ)は、ポルトガルの赤ワインで、
Vinho Tinto(ヴィーニョ・ティント=赤ワインの意味)が珍蛇に変わって伝わったという説があります
1703年、イギリスとの通商条約であるメシュエン条約を締結し、イギリスがポルトガルワインの関税を引き下げたことで輸出が拡大します
1756年、Porto(ポルト)の原産地呼称管理法が制定され、これが世界最初の原産地管理法となりました
1932年から、アントニオ・サラザールによる独裁体制により、鎖国に近い状態となり、ワインは国内消費のみに限られました
また、この間に多くの固有品種が発見されました
1986年、EU加盟を果たし、高い経済成長や企業の民営化を遂げると共に、ポルトガル復興政策としてワイン産業が膨大な投資を受け、急速に品質が向上しました
2020年以降、Porto(ポルト)に“ワールド・オブ・ワイン”という名の文化地区が造られ、レストラン、バー、ワインスクール等があり、産業や伝統、ワインを学ぶことができます
【品種】
ポルトガル固有の品種は250種類以上も存在すると言われており、品種の多さは世界一です
カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど、世界中で造られている品種ではなく、ポルトガル土着の品種が、今でも使われています
品種をブレンドする伝統があり、200種類以上をブレンドして造られた白ワインもあります
例外として、D.O.C. Bairrada(バイラーダ)の黒ブドウ品種Baga(バガ)や、
D.O.C. Vinho Verde(ヴィーニョ・ヴェルデ)の白ブドウ品種Alvarinho(アルヴァリーニョ)などは単一で使われることが多いです
主要品種の栽培面積順位は、
白は、Fernao Pires(フェルナォン・ピレス)(=Maria Gomes マリア・ゴメス)
Loureiro(ロウレイロ)
Arinto(アリント)(=Pederna ペデルニャ)
Alvarinho(アルヴァリーニョ)
Fernao Pires(フェルナォン・ピレス)は、全ブドウ中4位の品種で、
西海岸を中心に全国的に幅広く栽培されています
黒は、Tinta Roriz(ティンタ・ロリス)(=Aragonez アラゴネス =Tempranillo テンプラニーリョ)
Touriga Franca(トウリガ・フランカ)
Touriga Nacional(トウリガ・ナショナル)
Castelao(カステラォン)
Tinta Roriz(ティンタ・ロリス)は、Tempranilloと同一品種で、全ブドウ中1位の品種です
Touriga Nacional(トウリガ・ナショナル)は、果実味とタンニンをもつポルトガル北部を原産とするこの国を代表する品種です
【ポルトガルワイン法】
1754年にワイン産地としてDouro(ドウロ)が制定され、1756年に世界初の原産地呼称管理法でPorto(ポルト)が保護されました
ポルトガルワイン全体としては、1986年のEU加盟の際にワイン法を整備し、原産地統制呼称ワイン(D.O.C.)と、産地限定上質ワイン(I.P.R.)、地理的生産地表示テーブルワイン、テーブルワインの4階層を制定しました
2009年のEU新ワイン法発効に伴い、ポルトガルワインは地理的表示付きワイン(D.O.P.とI.G.P.)、地理的表示なしワイン(Vinho)の2つに大別されました
【ワイン産地】
ポルトガルのワイン産地は、北部、中部、南部、諸島に大別されます
【Minho(ミーニョ) 北部地方】
Minho(ミーニョ)地方は、ポルトガル北部に位置し、スペインとの国境となるMinho河一帯に広がるブドウ栽培地区で、土壌は花崗岩を主体とします
ポルトガルのブドウ収穫量の8分の1、栽培面積の14%を占めます
D.O.C. Vinho Verde(ヴィーニョ・ヴェルデ)は、“グリーンのワイン”という意味で、
Loureiro(ロウレイロ)、Avesso(アヴェッソ)、Arinto(アリント)、Azal(アザル)などからは、微発泡、フレッシュなタイプ、
Alvarinho(アルヴァリーニョ)からは、ボディや深みのあるタイプの白ワインが多く生産されています
【Duriense(ドゥリエンセ) 北部地域】
Duriense(ドゥリエンセ)地方は、ブドウ栽培にとって類まれな環境です
酒精強化されたPort(ポート)ワインの産地として世界的に有名ですが、近年は、スティルのDouro(ドウロ)ワインによって急速に名声を築いています
ポルトガル第2の都市のPorto(ポルト)は、Douro河の河口に位置し、世界遺産に登録されています
D.O.C. Douro(ドウロ)は、2003年に結成された、“ドウロボーイズ”と言われる5人組をはじめとする若い生産者達の活躍によって、赤ワインの産地として世界の注目を集めています
【Terras do Dao(テラス・ド・ダン) 中部地域)】
Terras do Dao(テラス・ド・ダン)地方は、地方の中部に幅の狭い古い段々畑と、石垣の伝統的なブドウ栽培地があり、世界遺産として保護されています
D.O.C. Dan(ダン)は、Viseu(ヴィセウ)県を中心とする産地で、生産量の80%が赤ワインです
ポルトガルを代表する黒ブドウ品種のTouriga Nacional(トウリガ・ナショナル)を主体に、酸味、アルコール、アロマ等のバランスの良いワインが生産されています
【Bairrada Atlantico(バイラーダ・アトランティコ 中部地域)】
Bairrada Atlantico(バイラーダ・アトランティコ)地方は、Terras do Dao(テラス・ド・ダン)地方と大西洋岸の間に位置します
比較的湿度の高い穏やかな海洋性気候の地方です
大部分のブドウ畑は平地に位置し、土壌は粘土石灰質、砂質が主体です
D.O.C. Bairrada(バイラーダ)は、1979年にD.O.C.に認定された、Danに接するワイン産地です
粘土質が多い土壌で、Bairradaの名前は、“粘土”の意味を持つBarro(バロ)と、“地区”の意味を持つBairro(バイル)に由来しています
生産量の85%が赤ワインで、タンニンの強いBaga(バガ)から力強いワインが生産されます
また、白は様々なスタイルがあり、瓶内二次発酵のスパークリングワインも多く、国内生産量の65%を占めています
【Lisboa(リスボア) 中部地域)】
Lisboa(リスボア)地方は大西洋沿岸に広がり、ポルトガルでも大規模な産地です
D.O.C. Colares(コラーレス)は、砂地で根が深く、接ぎ木をしていないフィロキセラフリーの木が残っているのが特徴です
非常に珍しいRamisco(ラミスコ)という黒ブドウ品種から、タンニンや酸が強く熟成のポテンシャルをもつ赤ワインが造られます
【Tejo(テージョ) 中部地域)】
Tejo(テージョ)地方は、Tejo河流域に広がる産地で、闘牛やポルトガル式ボートレースの競走馬の産地としても有名です
【Peninsula de Setubal(ペニンスラ・デ・セトゥーバル) 南部地域)】
Peninsula de Setubal(ペニンスラ・デ・セトゥーバル)地方は、大西洋の影響を大きく受けた温暖な地中海性気候です
D.O.C. Setubal(セトゥーバル)は、1907年に公式に定められた産地で、Moscatel(モスカテル)から造る酒精強化ワインが生産の主体です
【Alentejano(アレンテジャーノ) 南部地域)】
Alentejano(アレンテジャーノ)地方は、南部の大部分占めるエリアです
“Tejo河の向かい側“という意味を持ち、ここ数年の間に優れた赤ワインの重要産地となりました
また、この地方は世界有数のコルクの産地としても知られています
D.O.C. Alentejo(アレンテージョ)は、2000年以上前から伝統的に“アンフォラ”による醸造が行われています
アンフォラは素焼きの粘土で作られた土器です
気密性が低く、木樽のようにワインに微量の酸素を供給することができ、ゆるやかな酸化による熟成をおこなうことができます
外気の温度変化の影響を受けにくく、アンフォラ特有の卵型の形状により、自然対流を生み出すため、撹拌をせずに自然とじっくりワインを寝かせることができます
こうしたことから、ワインに人の手を極力かけず、自然にもっとも近い形でワインを造ることができ、独特の風味と複雑味が表現されます
【Terras Madeirenses(テラス・マデイレンセス) 諸島】
Madeira(マデイラ)諸島は、Lisboaから南西1,000kmの大西洋上に浮かぶ、エンリケ航海王によって開発された楽園です
D.O.C. Madeiraは、Madeira島で造られる酒精強化ワインです(世界3大酒精強化ワイン)
※別テーマで詳しく解説しています!
【Acores (アソーレス) 諸島】
Acores (アソーレス)諸島は、Lisboaと同じ緯度で、Lisboaから西へ1,500kmの大西洋上に浮かぶ、9つの島からなる群島(ぐんとう)です
D.O.C. Pico(ピコ)は、Acores (アソーレス)諸島の中で2番目に大きい火山島であるPico島で生産されます
地表がすべて溶岩でおおわれ、強い潮風を防ぐため、溶岩石を使ったCurrais(クライス)と呼ばれる石垣が特徴です
この島の代表的なワインは、Lajido(ラジド)です
かつてロシア皇帝や、英国の宮廷で親しまれていたことで有名な、中辛口の酒精強化ワインです
【総括】
ポルトガルではその小さな国土のほぼ全域において、ワインが造られています
西は大西洋、南は地中海の影響を受け、内陸は大陸性気候であるなど、気候や土壌は多様性が豊かです
ワイン造りの歴史は、紀元前2000年まで遡り、ヨーロッパの中でも長い生産の歴史を持っています
250種を超える土着品種から生み出される、個性的なワインに世界中から注目が集まっています
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