【概要】
ドイツは、ヨーロッパ主要国ではイギリスに次いで北に位置するワイン産地です
生産地域は北緯47度~52度の範囲に分布し、13の特定ワイン生産地域があります
品種は白ワイン用がブドウ畑の66.2%、赤ワイン用が33.8%、味のタイプでは辛口・中辛口が68.2%で生産の3分の2を超えます
ブドウ栽培の北限は北緯50度付近と言われていますので、ドイツはブドウ産地の北限に位置する産地です
13の特定ワイン生産地域は南部と南西部に集中しています
紀元前の5世紀~4世紀頃にケルト族貴族が地中海産のワインを輸入した事から、ワイン文化がスタートしたと言われています
ケルト人は、中央アジアの草原から馬と車輪付きの乗り物を持ってヨーロッパに渡来した民族といわれています
気候風土は、近年の温暖化の影響で1989年以降ほぼ毎年ブドウが熟成するように
年間平均気温は9℃~10℃と南方の産地に比べると冷涼ですが、夏の最高気温は40℃近くになることもあります
ブドウの成長期に雨が降りますが、年間平均降水量は500mm~1,000mmと生産地域によって開きがあります
また年間日照時間は1,400~1,800時間と比較的に短いので、ブドウがゆっくりと成熟します
【主要品種】
主要ブドウ品種は、栽培面積順位で
白は、
Riesling(リースリング)は、白ブドウ、黒ブドウの栽培面積合計の23.4%の割合を占めるこの国の代表的な品種です
2005年以降、Riesling(リースリング)を筆頭に国際的な辛口白ブドウ品種(Pinot Gris、Pinot Blanc、Chardonnayなど)の栽培面積は増加に転じました
逆に70年代~80年代初頭にかけてもてはやされたMuller-Thurgau(ミュラー・トゥルガウ)、Kerner(ケルナー)などの交配品種の栽培面積は90年代以降減少しています
黒は、
1980年代初頭には11%~13%程しかなかった黒ブドウ品種は、Spatburgunder(シュペートブルグンダー)と、Dornfelder(ドルフェンダー)を中心に栽培面積を増やし、2017年以降は33%台に伸びています
ドイツで栽培されているワイン用ブドウは北国ということもあり白ブドウがほとんどです
ドイツの偉大なワインは白ワインのみといっても過言ではないですので、白ワインの主要品種を中心に覚えていきましょう
【ドイツワイン産地の区画】
13の特定ワイン生産地域(ベシュテムテス・アンバウゲビート)があり、クヴァリテーツヴァインとプレディカーツヴァインは特定ワイン生産地域でのみ生産ができます
各特定ワイン生産地域は1地区から9地区のベライヒに分かれ、全部で41地区のベライヒがあります
ベライヒはさらに集合畑(グロスラーゲ)に分かれ、集合畑は複数の単一畑(アインツェルラーゲ)からなります
13の特定生産ワイン地域は、
Ahr(アール)は、ドイツ西部の最北のブドウ産地で、アール川を中心に、ブドウ畑が広がります
栽培面積はドイツで4番目に小さな地域です
主に、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を栽培しており、ワイン生産の80%以上が赤ワインの産地です
Mosel(モーゼル)は、爽やかなリースリングが得意なブドウ産地です
モーゼル川が流れていることで有名で、主に、白ワイン用のブドウ品種のリースリング、ミュラー・トゥルガウ、ヴァイスブルグンダーなどを栽培しています
ワイン生産の90%以上が白ワインの産地です
Mittelrhein(ミッテルライン)は、ライン川流域にあるワイン産地です
栽培面積はドイツで2番目に小さく、生産量がとても少ない地域です
主に、白ワイン用ブドウ品種のリースリングを栽培しています
ワイン生産の85%以上が、白ワインの産地です
Nahe(ナーエ)は、ラインヘッセンとミッテルラインの2つのブドウ産地に囲まれている地域です
近年では、良質なリースリングやシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)から高品質なワインを生産しています
Rheingau(ラインガウ)は、はドイツ5大畑の4つが入る著名な産地です
白ワイン用ブドウであるリースリングが78%、赤ワイン用ブドウであるシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)が12%を占める生産地です
Rheinhessen(ラインヘッセン)は、ドイツ最大のワイン産地です
以前は甘口ワインの産地として有名でしたが、近年では若手醸造家たちが「メッセージ・イン・ア・ボトル」という団体を作り、
良質なリースリングやシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)から高品質なワインを生産しています
Pfalz(ファルツ)は、ドイツで2番目に大きいワイン産地です
南端はフランスの国境に接しており、白ワインが全体の60%以上を占め、リースリングの栽培が多いです
また赤ワイン用のブドウは、ドルフェルダーとシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)を多く生産しています
ドイツ国内でワイン生産が一番多い地域です
Hessische Bergstrabe(ヘシッシェ・ベルクシュトラーゼ)は、ドイツで最も小さいワイン栽培地域です
約90%がリースリングから、辛口の白ワインを生産しています
Baden(バーデン)は、ドイツで3番目に大きいワイン産地です
南北に300kmにもわたる長い栽培産地です
フランス・アルザス地方の国境に面しています
赤ワイン用のブドウであるシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)の栽培が多いですが、北部ではリースリングやミュラー・トゥルガウなどの白ワイン用ブドウも多く栽培されています
Wurttemberg(ヴュルテンベルク)は、ワインの消費量がドイツ国内平均の2倍にのぼります
サラリと飲みやすいワインが多く造られています
主に赤ワイン用のブドウであるトロリンガー、レンベルガー、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)などが栽培されています
Franken(フランケン)は、辛口ワインにこだわり、残糖分がほかの産地より少ないのが特徴です
ドイツ全体で甘口ワインを量産していた時期も、辛口ワインを造り続けていました
白ワインの生産が多く、ミュラー・トゥルガウ、シルヴァーナー、バッフスなどが多く栽培されています
また、ボトルの形が、ずんぐりむっくりで平べったいのも特徴的です
Saale-Unstrut(ザーレ=ウンストルート)は、ドイツ最北端にあるワイン産地です
産地を流れる、ザーレ川とウンストルート川が名前の由来となっています
多くのブドウ品種を生産していることもあり、多数の味わいを楽しめる産地です
主に、辛口の白ワインを生産しています
Sachsen(ザクセン)は、ドイツで唯一東にあるワイン産地で、栽培面積はドイツで3番目に小さい産地です
主に、白ワインの生産が多く、ザクセンで栽培される特産物でもある「ゴルトリースリング」というブドウが有名です
【ワイン法】
1871年にドイツが初めて統一され、それから約20年後の1892年に最初のワイン法が成立しました
1971年に施行されたワイン法でドイツワインの格付けシステムは根本的に変わり、収穫時の果汁糖度に応じてワインの格が上がることになりました
これには第二次世界大戦後の、甘口ワインブームが背景にあります
2009年のEUワイン市場改革に伴うワイン法改正で、地理的表示付きワインと、地理的表示なしワインの2つに大別されました
これにより地理的呼称による格付けが導入されたものの、その表記は任意とされ、“収穫時の果汁糖度”による肩書き(格付け)は“伝統的表記”として従来通り維持されました
【Pradikatswein(プレディカーツヴァイン)Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)】
“収穫時の果汁糖度”による肩書き(格付け)は、Pradikatswein(プレディカーツヴァイン)と、Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)の格付けを指します
Pradikatswein(プレディカーツヴァイン)は、収穫時の果汁糖度によってさらに6段階のカテゴリーに分けられます
ブドウ果汁の糖度が高いほど格が高いワインです
最上級の、貴腐ブドウで造られるTrockenbeerenauslese(トロッケンベーレンアウスレーゼ)は、
フランスのソーテルヌ、ハンガリーのトカイワインと並び、世界3大貴腐ワインにあげられます
収穫時の果汁糖度は150~154エクスレです
Oechsle(エクスレ)とは、ドイツ人技師Ferdinand Oechsle(フェルディナンド・エクスレ)が
1830年代に提唱した比重計によるブドウ果汁の糖度測定方法で、1971年のドイツワイン法の格付け時の基準とされました
比重計で表される数値を“エクスレ”と呼び、ドイツ以外ではスイスとルクセンブルクで用いられています
Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)との最大の違いは、補糖(シャプタリザシオン)が出来ないことで、
その他の生産条件は基本的にQualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)の規定に準じます
【Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)の規定】
2021年からの新ワイン法では、Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)の生産規定は、“原産地呼称保護ワイン(g.U.)”の生産規定として引き継がれています
Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)の条件は、
【残糖値とスタイル】
ドイツにはEUの規定に基づく残糖値に応じた表記が認められています
かつてドイツでは、気候が冷涼なためアルコール醗酵が自然に止まり、糖分が残って酸味などと調和したオフドライのスタイルなものが多くありました
また、第二次世界大戦後に甘口ワインがブームとなり、“ズュースレゼルヴァ”で甘味を加えるなどの甘口スタイルが多く生産されたことが、既定の背景にあります
ズュースレゼルヴァは、醗酵後に添加されることがある、未醗酵のブドウ果汁のことです
早摘みされ、糖度が低く酸度の高い果汁から醸造した安価なワインの甘味を調整し、酸度とのバランスをとるために、全体の25%以内の量で添加することが認められています
【スパークリングワイン】
弱発泡性ワインのPerlwein(ペールヴァイン)は、ガス圧20℃で1~2.5bar(バール)で、アルコール7度以上のもの
発泡性ワインのSchaumwein(シャウムヴァイン)は、ガス圧20℃で3.0bar(バール)以上、アルコール9.5度以上のもの
Sekt(ゼクト)は、ガス圧20℃で3.5bar(バール)以上、アルコール10度以上のものです
Sekt b.A.(ゼクトb.A.) は、Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)品質から生産されるもので、
Winzersekt(ヴィンツァーゼクト)と、Cremant(クレマン)の2つのカテゴリーがあります
また、Schaumwein(シャウムヴァイン)とSekt(ゼクト)の甘辛度はChampagne(シャンパーニュ)と同じ残糖量で分けられています
【ロゼワイン】
ヴァイスヘルプストは、単一の赤用品種から造られたロゼワインで、Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)以上の品質で造られます
95%以上は白ワインのように圧搾した果汁を使用します
色調の規定がないため、白ワインのような外見のものも存在しています
ブラン・ド・ノワールは、赤用品種を醗酵前に圧搾して得た果汁から醸造したワインです
外見は基本的に白ワインのような特徴があります
2021年のドイツワイン法改正により、”原産地呼称保護ワイン(g.U.)であること”という条件が加わりました
ロートリングは、赤白ワイン用品種を混醸した、淡い赤色もしくは明るい赤色のロゼワインです(白ワイン、赤ワインのブレンドではない)
【ブドウ畑の格付け】
プレディカーツヴァイン醸造所連盟は、ドイツのブドウ畑の格付けを推進している生産者団体で、1910年に全国組織ドイツ・ナトゥアヴァイン競売者連盟(VDNV)として設立され、2000年から現名称となっています
加盟生産者は厳しい自主規制に基づいて毎年様々な面から検査されており、近年約200の生産者が加盟しています
2012年より4段階の格付けとなり(それ以前は3段階)、
格付けの前にVDPが付いているのは、VDP独自の規定に従った格付けであることを明確にするためです
【総括】
ドイツはヨーロッパのワイン生産国の中でも、英国に次いで北に位置しています
甘口ワインのイメージが強いですが、近年は酸やミネラルを多く含んだ辛口の白ワインが注目を集めています
第二次世界大戦後の甘口ワインブームなどを背景に、収穫時の果汁糖度に応じてワインの格が上がる格付けシステムや、
Pradikatswein(プレディカーツヴァイン)や、Qualitatswein(クヴァリテーツヴァイン)などの伝統的表記、またVDPによる独自のブドウ畑の格付けなど
正面から向き合うと、ドイツ語の発音の難しさと相まって挫折要素が極めて大きいと思います
特にワイン法の箇所については、どういった流れの中で現在の規定に至っているのかを歴史の中から学ぶ形が受け取りやすいと思います
2021年ドイツワイン法の格付けの基準が、“収穫時の果汁糖度”から“地理的呼称範囲”に改正されており、
2026年産からはラベル表記も切り替わっていく見込みです(現在は移行期間)
このように、EUワイン法の流れに統一していく動きも強く出てきています
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